第7章 情報技術とは

情報社会を支える三つの技術

 21世紀サイバー社会とはどんな社会でしょうか。それは目に見えない電子の世界に、従来の社会の仕組みがとり込まれ、この中で政治、経済、医療、教育、娯楽、出版等々のさまざまな活動が繰り広げられる社会のことです。物理的な建物や道路、交通機関はこの中には存在せず、外側からは、情報端末やケーブルのほかは何も目に見えないヴァーチャルな社会です。そして近い将来,情報端末やケーブルも

 1. 超小型化
 2. 無線化
 3. 音声 等による生体情報による入力
 等々によって私達の視界からは消えてしまうでしょう。

 サイバー社会の中は、人が動くかわりに、必要な情報が音と絵(静止画あるいは動画)の形で高速の通信回線を経由して飛び交い、そして大容量のメモリに納まっている世界です。


 では、今日のサイバー社会への動きを加速しているものは何でしょうか?
 図1に示したような三つの技術の爆発的な成長こそがサイバー社会への動きを加速しているのです!


図1



 1960年初頭ぐらいから、演算、記録そして通信を支えるマシーンが、

 演算技術 : そろばん →  電子計算機
 記録技術 : 紙     →  半導体・磁気・光メモリ
 通信技術 : 電話線  →  光ネットワーク(ファイバー),モバイル


のように置き換えられました。この世代交代によって三つの技術の世界は、様相が全く一変することとなりました。

 上記の置き換えによって、演算技術、記録技術、通信技術の世界にあらたにもたらされたことは何だったのでしょう。それは以下のように要約されるでしょう。
  1.  1960年代以降、これら三つの技術のことごとくが、人類がかつて技術の世界で経験したことのない異常なペース、すなわち指数関数的な(爆発的な)ペースで成長を開始し、過去半世紀年以上、このペースが恒常的に継続していること。
  2.  三つの技術はもはや独立に発展することはあり得ず、図2に示しますように、互いに絡み合いながら成長を続けていること。
  3.  情報通信・記録技術はアナログ的手法で行われていましたが、上記三つの技術の発展によりディジタル的手法が主流になりつつあること。



図2



日常生活の数とインターネットを支える数
 社会生活の中で活躍している数とインターネットの中で活躍している数との間に、本質的な差があるでしょうか。ここでは、このことについて考えてみましょう。
  1. 日常生活で活躍している数
     日常生活で活躍している数は 0、1、2 …です。新聞紙上で見られる数は最大で1000兆程度で10進数の15桁程度、最小ではピコ、つまり0.0000000000001程度でしょう。これらの数の間での足し算は当然のことながら、“桁上げ”があり、引き算の場合には“借り”といった操作が必要となります。ここで桁上げあるいは借りといった操作は、コンピュータにとっては“やっかいなこと”であり、時間もかかることに注意しましょう。

  2. インターネットを支える数
     私達が日頃使用しているHD, CD, DVDでは、ガロア体GF(2)の要素(element)である0、1が用いられて情報が記録され、数学的な処理がなされています。
     GF(2)とは19世紀、激動の時代を生きたフランスの若き数学者ガロアが発見した数学的集合、有限体(Finite Field)のメンバーです。GFとはGalois Fiedld(ガロア体)を意味しています。
     これらの数の非常に大きな特徴は、桁上げや借りといった煩わしい操作がないことです。

    例えば通常の2進数の場合、以下に示すように1+1=10と計算されます。また16-11=5の計算は下記右のように実行されますが、“借り”という面倒な操作が必要となり、ハードウエアにとっては大きな負担です。





     これに対し、GF(2) の場合



    となります。また1=−1の関係によって足し算=引き算であり、桁上げは勿論、借りという操作も必要でなくなり、例えば(10111)-(01101)は右上に示したように(10111)+(01101)=(11010)と成分ごとにGF(2)の世界の加算を実行すればよいのです。

     この単純さによって、GF(2)に属する数が、桁上げあるいは借りなど煩雑な操作が必須となり且つGF(2)に比べて数学理論の適用が困難な2進数を完全に駆逐し、インターネットの数の世界を圧倒的に支配することになったのです。

     インターネットの世界はまさにGF(2)の元0,1が飛びまわる世界です。あなたの好きな音楽や動画はすべてこれらの二つの元0と1とが運んでいます。0と1という二つの数がインターネットのまさに主役なのですね。

     とても悲しいことに、そしてとても残念なことに、我が国においてはかなりのレベルの専門家たちが口をそろえてこれら二つの元を2進数と呼んでいるのです!!
     これは本当に驚きです。“ピアノ”を見て“ヴァイオリン”というどころか、ピアノは“机”であると主張するよりもひどい間違いでしょう。

     正解は2元数です。 1+1=0となる数です。2進数とは全く異なる数なのです!!
     あなたが、このことをしっかり頭にインプットして下さいましたら私は本当に嬉しいです!
     正しい知識こそが本当の力になるからです。

     因みに、この数が、数学的に処理されることによって、インターネット等で交換されるさまざまな情報、例えば、コンピュータデータ、音楽番組、映画などのコンテンツ等の情報に対し、

    1.  誤り制御
    2.  プライバシィ保護
    3.  盗視、盗聴対策
    4.  著作権保護

    等々の能力が付加されます。そして、このことによってインターネットにおけるさまざまな社会活動が可能となります。

     我が国では、0と1の数というと必ずといってよいぐらい“2進数!!”という答えが返ってくるのです。電子、情報、通信関係の技術者、研究者からもこんな返事が返ってくることが多いのです。
     とても残念なことです。皆さんは“2元数ですよ!!”、“1+1=0の数ですよ!!”と教えてあげて下さいね。

     0と1の2元数で完全に表現されたさまざまな音や動画を、上述のような演算つまり
    1+1=0
    1+0=1+0=1    (A)
    1・1=1
    という演算を主要な数学ツールとして処理します。そしてこの数学的処理によって、高品質、高信頼度、高安全性が保障されたさまざまなシステムを電子社会(インターネット社会)に提供します。情報技術はこのように数学的、工学的技術なのです。

     電子社会に“住み心地よい建物”を作る技術、この技術が情報技術なのです。
    この電子の社会に完成したビルに住み込んで、eビジネス、ネットビジネスを展開する人達を、情報技術(IT)のプロなどと呼ぶことが多いのですが、考えてみると奇妙なことですよね。


    エピローグ



     心地よく響く音楽、はっと息を飲むほど美しいカラフルな映像、可愛いお子様の写真などなど、その全てがGF(2)の数0と1とに表現されてあなたの家のテレビ、携帯電話、スマートフォンに飛び込んできます。
     新聞や雑誌の紙面を虫めがねで拡大して眺めてみると黒い画素と白い画素の集まりとなっています。これと全く同じことで、全ての映像、音楽コンテンツはGF(2)の数0と1とに分解されてしまいます。
     ガロア体の要素0と1。この数こそが私達のネット社会を根底から支えている数です。ネット社会を“生命体”と考えれば、この数0と1とは“命の水”と考えることができるでしょう。可能な限り映像コンテンツや音楽コンテンツの品質を高め、そしてセキュリティを守るために、例えば





    といった形での加算などが実行されているのです!
     あなたが電子端末のスイッチを入れた瞬間から、スイッチをオフにするまで、電子端末はこういった演算をひたすら実行しつづけ、あなたに高品質、高安全性のコンテンツを再生するよう働きつづけます。
     なお数学の世界ではGF(2)という記法ではなく という記法が一般的です。しかし電子情報通信の分野では19世紀激動の時代を革命家として生き、21才で亡くなった大数学者ガロア(Galois)の発見によるものであることを考えて、GF(2)と表記することが多いのです。



    TOPページへ   次章へ